【ナイトウィザードOS】
Masters of infinite communion

<CHAPTER−2 INTERLUDE>


アメリカ、連邦遺伝子工学研究所…プロフェッサー=コスの部屋。
夜闇の魔法使い達がアメリカから去った今、彼はテレビ電話で通信をしていた。
通話の相手はシン=マックビー…世界的兵器産業『トリニティ』の代表取締役である。

「では、アンブラの機密は手に入らなかった…のだね」
やや険の入った声音で、シン=マックビーが問いかけてくる。

「はい、申し訳ありません…しかし、それ相応に重要なものは手に入りました。」
遺伝子工学の権威は、へつらうようにマックビーの声に言葉を返す。
その傍らでは、培養カプセルに収容された細胞が少しずつ増殖を始めていた。

「ブラディ=リリス…例の『D=アームズ』の実験体から得られた細胞です。
戦闘用に調整されたこの細胞なら、クローン兵の質的向上に大いに寄与する事でしょう」

あろう事か、プロフェッサー=コスは…トリニティと結託していたのである。

「よかろう…それで、完成はいつ頃だね?」
「半月もあれば…その後は増産を掛ければ問題はございません」

「そうか。今回、ウィルの莫迦めが派手に兵隊を減らしてくれたからな…
その分を補ってくれなければ割に合わないというものだ。頼んだぞ」

「はい、かしこまりました…」通話を切ったプロフェッサー=コス。
誕生に向けてなおも増殖を続ける『蒼魔 弓』の体細胞を、彼は見つめていた。
老いたその顔に、野望に満ち溢れた笑みを浮かべつつ…

◆ ◆ ◆

運命が回り始めた場所は…実は、そこだけに留まらない。
いまひとり、重要な人物がこのおそるべき物語に関わろうとしている…

そこは、いずことも知れぬ場所。
暗闇の中…僅かな紫色の明かりが、そこにあるものの輪郭を映し出す。

おそらくは紅の色をした布地が、幾多もの年月を経た石段を彩る。
そう…さながら血のように。そして…漂うは、腐臭にも似た瘴気。

「ヴィルトールが敗れました」
静かな、紳士めいた男性の声。
それは影のごとく、存在の証を布地に映し出している。

「そう……予想通り、ね」

若き女の声が、その場に妖しく響く。
よく見れば、闇の中に浮かび上がる妙齢の美少女がひとり、
敷き詰められた布地の上に横たわっているではないか。

「所詮は成り上がりの電霊、再戦の機会を与えてもこの程度でしたか」
失望露わな男性の声。しかし少女はその場に寝そべったまま、事も無げに言う。

「まあ、駒としては役に立ったけどね」
しばしの沈黙。

「確かに。それで、奴めは…」
「放っておきなさい。あの実力では何度試しても同じ事…
せいぜい、囮として踊ってくれれば上々よね」

男性の声を遮るように、これまた事も無げに言う少女。
おそらくは…少女が主、男性が下僕の関係か。

「では…いよいよ?」
一糸纏わぬ姿の少女は、その言葉に…気だるげに身を揺らす。
隠すものもない白く可愛らしい膨らみがふるり、と揺れ…
あやうげな肢体も露なままに、少女は身を起こした。

「そうね。かつての恐怖『第7艦隊』…そして『ディメンジョン=ガジェット』が眠る地…興味深いわ」
少女がすい、と眼を細める…さながら、面白いおもちゃを見つけた子供のように。

「しかし…『例の連中』はいかがなさいます?…既に滅ぼされた盟友もおりますが」

「それはまた別の機会にすればいいでしょ…
『横須賀』さえ抑えてしまえば、叩き潰すなどたやすいこと」

懸念を口にする男の声に、少女は苛立たしげに言葉を返す。
そして、少女は思い返す…かつて、人間達相手に『いつもの遊び』を仕掛け、
予想にもなかった『少しばかりの火傷』を負ったことを…

「左様で…では、いかがなさいます。
日本政府筋によれば、くだんの件…ダンガルドの小僧が嗅ぎ回っているとの事」

「そうね…おかげでいくつか分かった事はあるけど、詳しい事はまだまだね…」
少女は頬杖をついて考え…やがて、口を開いた。
「さしあたり、それは『一条家』や『M−0010』からの次の報告を待ちましょ。
それと…少し、手はずをつけておいて。近いうち…私自身で確かめに行くから」

影は、その言葉に一礼した。絶対の力を持つ、主の命令。
それは…危機に瀕したこの世界を、更なる危機に陥れる先触れ。
そして、影は言った。

「承知いたしました…ベール=ゼファー様」

◆ ◆ ◆

そして…運命の舞台に、なおいまひとりの役者が降り立つ。
それは、横須賀沖の海深く…人知れぬ場所で。

かつて、この海で夜闇の魔法使い達が1人の友の為に戦い…そしてその時、ここに爆弾が落ちた。
アメリカ政府が、かつての惨劇を隠蔽せんとして放ったその爆弾によって、
その場に存在したものはすべて破壊され、消滅した…

…はずだった。

だが、今…その海底を、ゆっくりと歩むものがある。
一歩、また一歩…全身に瓦礫やら海草やら藤壺やらを貼り付けた『それ』は、
物言わぬままに、ただ足跡を刻み続ける…さながら、破滅の鉄槌がごとく。

果たしてそれは、アンゼロットの危惧した『事態』そのものなのか。

時は静かに物語を紡ぎ…戦いは、激しさを増してなおも続く…


NEXT CHAPTER

インデックスに戻る