【第34夜】
覇界大侵攻
<PART−19a>
冥魔将を阻止せよ!
〜GMシーン〜
MASTERSが、柊と合流を果たしていたその頃。
“冥盗将”エンディルスは、既にアンゼロット城への侵入を果たしていた。
「……いやはや、相変わらずここの警備はザルだね」
ロンギヌス警備員に成りすましたエンディルスの目的は、裏界に伝わる「プレシャス」を手に入れる事。
彼自身が直接動かずとも、メイオルティスの残党やマンモンの配下など、
エヴォリューションコアを持つ者達の動静を見て、状況は概ね把握できていた。
しかし、今の持ち主…ベール=ゼファーがアンゼロット城に収容されるに至り、
エンディルス自身が直接動かざるを得なくなったのだった。
「鍵を握るのはやっぱりベール=ゼファー。それがここに来ている……運が回ってきたかな」
独りごちつつも、角を曲がる。
その先は、最重要機密倉庫…ベルが隠されている所。だが……
「……本当に、そう思うかい?」
と、エンディルスの行く手を阻む、赤く巨大な影。
舌打ちと共に引き返そうとした時、その行く手もまた阻まれる。
「正体は分かっていますよ。“忍び盗む騎士”エンディルス……
申し訳ありませんが、ここから先は通行止めです。他をあたって下さい」
蓮石 尽と陣内 司。更に、赤羽 くれは率いるロンギヌスの精鋭たちが。
「はわ。来るのは分かってたんだよね〜」
一斉に、冥魔将を取り囲む。
「おやまあ。こりゃ熱烈な歓迎振りだ……でも、僕の邪魔はさせない」
エンディルスがゲートを開くや、冥魔どもが次々と姿を現した。
「ま、そう来るのが普通だろうねぇ……だが、俺達も後には引けないんだ(ははっ)」
「そういう事です。何を狙っているのであれ、阻止させていただきますよ」
かくして戦闘態勢を整える両者。しかしそこに、更なる来客が。
「まさかこの私が、人間ども等と組む時が来るとはな……それそのものは業腹だが、勅命なれば是非もなし!」
裏界魔王、アルヴァス=トゥールの登場であった……。
一方。“冥姫将”トゥミカナスは、ひとり虚空に佇み目前の“世界”を見つめていた。
「…世界結界の新たなる要、ルシファーズ=サン。
ここを落とせば、ディガイディス様は世界結界を越える事が出来る…!」
そう。彼女が居るのは、嘗て策謀を巡らせていた“常夜の国”にあらず。
なんと、彼女は「ルシファーズ=サン」に接近していたのだった。
……だが!
「見つけた……“冥姫将”!」
斜め後ろから降り注ぐ無数の矢を、トゥミカナスは振り払う。
果たしてその先には……裏界魔王、レライキア=バルの姿があった。
レライキアは月匣を開き、配下の侵魔たちをトゥミカナスへと差し向ける。
もちろん、彼我の戦力差は最初から承知済み。その真意は…別の所にあったのだ。
「流石は裏界魔王、まさに予定通りの流れだな……さぁ、行くぞ!」
月匣の発生は、彼ら……不破 龍清率いる“トイフェル=シッフ”のウィザード達にとって望むところである。
「現状でトゥミカナスの出現位置が明確でない」という状況を受け、
彼らはレライキアと連絡を取り合った上で保有する大型箒を虚空に浮かべ、
ひたすらにこのタイミングを待ち続けていたのだった。
実は龍清、事前に“常夜の国”で、一之瀬 佐一とレライキアからこう話をされていたのであった。
「ああ、最初の話だと“常夜の国”が狙われるかもって話だったけど、
もしかしたら違う所って可能性もあるんだよな……だからその時に備えて、お空で様子を見てて欲しいんだ。
なあに、こっちはこっちで何とかできるからさ」
「……私が月匣を使って、ヤツの退路を断とう。あとの事は、わかるな」
果たして佐一の予見は見事的中、龍清たちは迅速に展開できた訳である。
「……裏界魔王が人類の味方をするとは、滑稽なことですね」
ウィザード達のエントリーを受けて、トゥミカナスも戦闘態勢に入る。
そして、D=アース。柊の魔剣を頭に受けたショックで冥魔将の素性を綺麗さっぱりと忘れ、
いまやウィザード陣営の末席として雑務をさせられているところのイークオルスは、
世界外縁部に停泊したロンギヌス一等航宙母艦の飛行甲板上にあって、
黒鎧の青年・エウスタキス=オナシスの訪問を受けていた。
久しくMIA扱いになっていた元ロンギヌスメンバーの、
突如の登場に、“ファイアフライ”の面々は困惑するばかりである。
「いいのかアレ、本当に…?」
「あまり良いような状況には、見えませんけれども…」
「そうなんだけどねえ…
ま、もしイークオルスに何か問題があったら、それこそ俺らが責任とりゃいいだけだからな」
「……そうですね。その時は死力を尽くして戦うべきだと、A2は思います」
固唾を飲んで警戒する現役ロンギヌス達を他所に、当のエウスタキスは?といえば……
教え込まれた甲板掃除をしているイークオルスの姿を、しばらくの間ただ眺めているだけだった。
「あの……何か、俺に用か」
「ああ、ただキミの顔を見に来ただけなんだけど……まあ、いいんじゃないかな」
手にした駄菓子の包みを、冥魔将に差し出す元ロンギヌス。
エウスタキスに渡されたその包みを、促されてばりばりと食するイークオルス。
一連の様子は、彼らの素性を知る者達にとって、様々な意味で異様なものである。
「食べ方は、そうじゃないんだけどね……どうかな?」「よくわからん」
言うまでもなく、この世界の“常識”すらいまひとつ理解できていないイークオルスの事。
駄菓子の味など、分かるべくもない。
「あれは、どう取るべき状況でしょうか」
「……うーん。何かの仕掛けでもなければよいのですけど……」
何事もない、おそらくそれは幸運なひとときといってもいいであろう状況。
やがてエウスタキスは特に何をするでもなく艦を離れ、イークオルスも普通に仕事へ戻っていった。
無限の虚空にあって、誰に向けるともなく黒鎧の青年は呟く。
「彼らは、僕を襲わなかった…それが、大事なんだよね」
実のところ、エウスタキスは気付いていた……後輩たる“ファイアフライ”達の監視に。
“今や人でなくなった”彼自身を、彼らが警戒するのは当然の事と判断できる。
もし、彼らが自身を襲う事があれば、エウスタキスは本来するべき“ある決断”をせねばならなかった。
それが杞憂に終わった以上……ディガイディスの配下“冥人将”たる彼は、
その“冥魔将としての使命”よりも、あえて“人であった過去”を尊ぶ事にしたのだった。
冥魔の性と言うべき“内面に沸き起こる破壊衝動”を抑えつつ、彼は急ぎその空間を後にする。
「何だったんだ、ありゃ」
エウスタキスの去った虚空から視線を離し、甲板掃除を再開するイークオルス。
単純作業に苦と言う概念を持たない冥魔にとって、
その主たる衝動を忘れている今という時間は、非常に平穏なものである。
「やはり、奴は冥魔……だが、何故何もしないのだろうか…?」
一連の状況を見ていたパイ=レイモーン、こちらもやや困惑気味。
しかしさしあたり、シティへの危険を鑑みて、エウスタキスの後を追う事にするのだった。
……平行世界「D=アース」、なべて異常なし。
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