【第9夜】
焔の予兆

<PART−17>



その時、起きた異変


その時、戦場を不意の振動が襲う。
「ほえ?」「ぬぉ!?」「・・・・・・・・・・何?」
虚を突かれた一同が、敵も味方も、上空を見上げる…
月匣の奥深くで起きたそれは、あまりにも非常識な事態であった。
引き裂かれた天井の向こうに、巨大な腕がふたつ…病院内部を覗き込むように、それは存在している。

「まさか…エミュレイター?」
月匣の壁を押し開いているのは、ひどくひび割れた岩の両腕…
その向こうに、これまた無数のひび割れを生じた巨大な石の胴体。

「海水……首が無い……まさか?」「やな予感・・・」
滴る水滴に、潮の香り…
「いつぞやの大仏の同類か」「…………ていうか…そのものじゃ?」

そう! それは、先刻一同が倒した・・・はずの、石仏そのものであった!

「唯でさえ忙しい時に……。」「なんで、今この時にこれが来るの!?」
翔真が舌打ちし、凛が驚愕の声を上げる。
「あれ・・・お姉ちゃん、あれもお姉ちゃんが呼んだの?」
「うぅん・・・あんなの知らないわよ・・・?」

見れば、瑠那も少年も当惑そうにしているではないか。

「……(外の被害は一体どれほどに…)」
外界の被害を案じる翔真の、まさにその前で。
「何か妙なモノを持ってたりせんのか?」
「なーんにも・・・って、なんであたしが言わなきゃいけないのよ」

アドノレの問いに、瑠那のこの答え…どうやら、彼女は嘘をついていないようである。

「未知の敵のが一番の強敵だからだ。少なくとも意思の疎通は難しいと思うぞ」
なおも語る、アドノレの横で。
「どっちを先に倒す?」「……目の前からだな。」
やや緊張気味の凛にそう答えてから、
「……無理はするな。」と言葉を足す。
「大丈夫だって♪」銀狐姿の凛は、翔真の気遣いに嬉しさ満面、思わずウィンクしていた。

「さぁて、さっきまでのお礼をしなくちゃね・・・仔猫ちゃん?」
先手を取った瑠那が、弓に標的を定める…どうやら、考えるのは後にしたようである。
鋼鉄の糸がしなり、波打ち、弓を切り裂くかに思えたが…間一髪。
「……………くっ………」
弓の翼が、あらぬ方向に制動を掛け、その軌道を紙一重でかわしていた。
代わりに舞い散ったのは…彼女の上着の切れ端。

「ふふふふふ・・・まだまだこれから。丸裸にして、たっぷり鳴かせてあげるわ・・・」
「…………………フン…」両者ともに、まだ余裕綽々である。

凛 >脱衣戦闘らしい(笑)
翔真 >ボロボロだけど視線が引っ張られそうです(笑)

「あ、戦いは続けるんだね・・・わかった」少年は、暴徒達を凛に差し向けていた。
「(共闘するか、敵同士で同士討ちをやってくれたら楽だったのに・・・。最悪、三つどもえになるなぁ・・・)」
響はそう予想していたが、これで少なくとも、戦いは終わらないという事になる。

「キミの相手をしている余裕はないんだよ!」かわしにかかる凛だったが…敵は予想外に素早かった!!
「凛さん、危ない・・・!」
可憐の助言で、とっさに衝撃を殺したものの…喰らったことに変わりはない。
「あくぅ〜・・・・痛いよう!」抗議するように、少年に叫ぶ。
いつもの状態なら、涙目で睨むところなのだが…銀狐の姿で、どこまで意思が伝ったものやら。
当の少年も少年で、
「だって、痛くしなくちゃ、わかってくれないじゃないか…」

などと言っているではないか。
「目の前の事が万事で後は野となれ山となれ。確かに魔の思考らしいと言えなくも無いが…愚かな」
瑠那たちの挙動を見たアドノレ、吐き捨てるように言う…その時、石仏が動いた。
なんと石仏の指先から、これまた石で出来た爪が飛び出し、瑠那とアドノレに突きかかる!

「なっ・・・・・・こいつ・・・ッ!?」
アドノレはどうにかこれをかわしたものの、直撃を受けた瑠那が、派手に吹き飛ばされる。
翼を上手く操って、それ以上のダメージは抑えられた様子だが…痛打は痛打である。

「……………よそ見してる暇、ないんじゃない?」
小馬鹿にしたようにくすり、と微笑んで、弓。

「ちいッ・・・アレを発見できないうちから、まぁ邪魔が入るわ入るわ・・・」
「…………ふぅん…何かを探してるのね……それならなおさら…もう少し私と遊んでもらおうかしら?」
舌打ちする瑠那を、更に挑発する弓。しかし…今の状況は、敵味方等しく波紋をもたらしていた。
そう…この石仏は、エミュレイターである瑠那をも攻撃していたのだから。
反撃とばかりにアドノレがメルトアームズを放つも、これはまるで問題とされなかった。

アドノレ >くぅっ、低い(^^;

「大きいだけあって、避けにくいし痛そう〜」「今食らったら楽に死ねそうだ……」
隣り合い、素直に感想を述べる2人。そして…
「そんなのボクが許さないからね!」「………努力しよう」
泣きそうな声の凛に、苦笑する翔真。

「むぅ〜・・・ボクがこの大仏さんを倒して、応援に駆けつけるから!」
ジャンプ一番、巨大な石仏に踊りかかる…石仏は動きが鈍いためか、あっさりと切り刻まれる。
だが…それはひび割れた石で出来た表面だからこそ。石仏そのものは、まだ活動している!

「道連れにしては詰まらんがタダで終ると思うな……!」
翔真は、少年に斬撃を試みていた…またぞろ暴徒達を盾に使おうとする少年。
しかし、翔真の狙いを定めた一撃は、少年の挙動を許す前に炸裂していた。

「うぁああぁ・・・ぁあ・・・!!」少年の悲鳴に苦渋の表情を浮かべつつ。
「……不本意だが、お前を倒さんと余計な被害が増える。覚悟を、決めろ…!」
それでも、言わねばならない…力に溺れた少年自身の為にも。
「僕だって・・・どうせ死ぬならただじゃすませない・・・!!」
少年も、出血に苦しみながら再度態勢を立て直す。両者、一歩も引く姿勢を見せない。

翔真 >子供に凄んでも大人気無いだけなんだけどね−^^;

「響さん、ヘッシュを皆さんに掛けていただけませんか?」
言いながら、可憐はピグマリオンを起動していた…Evil−eyeで狙いを定めた先は…石仏。
そして、弾き出された結果に可憐は顔をしかめる事になる…
驚くなかれ、石仏は「イレイズ」「死点撃ち」「収奪」の能力を、新たに獲得していたのである。

「……解った、もう少し抑えておいてくれ。」「了解しました。」
2人のやり取りの横で、凛は当然の疑問を感じていた…
「むぅ〜前と能力が違ってる・・・・・どこかで改造されたのかな?」

一方、可憐の要請に応えて…響が前線の仲間達にヘッシュを発動していた。
「The spirits of a departed person of water are ordered.
According to my voice,it becomes clothes and
his person can be protected.」

(水の精霊たちよ、我が声に従い、彼の者を護る衣となれ)

その間にも、瑠那は弓に攻撃を続行するが…大振りな軌道は、難なく弓に回避されていた。
「………………あせってるの?……」「ふふ・・・違うわよ。楽しんでるのよ、仔猫ちゃん♪」
悪態を付き合う2人、立場は全く違えど下手をすれば紙一重!?

一方、少年は自らの傷を再生させつつ、アドノレに向かって暴徒を殺到させていた…
まるで昔懐かしい洋菓子のコマーシャルフィルムのように周囲を囲まれ、蹴りを入れられる。

もちろん、BGMはアレ以外にはあり得ない!(爆)
更に、石仏の再撃まできっちり喰らうおまけつきである。
そして、その上空では…
「………………邪魔、ね……」

同じく石仏の攻撃を受けた弓が、これを見事に回避していた。

コンボを喰らってもどうにか無事だったアドノレは、払底したMPをプラーナに変換。
その間に弓が、凛が、そして翔真が攻撃を敢行していた。

「早く倒れろ〜!!」凛が石仏に飛び掛かり・・・そして、ひび割れた岩盤を爪で大きく削り取る。
「……………ダブルトリガー……」弓の『右腕』がブーストされ、瑠那に叩きつけられる。
「ツドエ、ホノミタマ……!」炎を帯びた翔真の天津大鋼が、暴徒達のガードを抜けて少年に痛打を与える…

だが、敵はいずれもまだまだ健在…
「まだ、壊れないの〜!」凛の大声がこだまする。

一度間合いを取り、互いに睨みあう弓と瑠那。
「………………さて…先に丸裸になるのは貴女じゃなくて?」
「ふふ……それはあたしの得意分野よ。あんたには出来るの、仔猫ちゃん・・・?」
「…………ふふっ……当然……」「…それじゃあ、見せてもらおうかしら?」
…既に何が主題なのか分からないような戦いになっていた…(爆)

アドノレは、ここでレインコールを発動し、可憐と響、そして自分自身を回復させる。
更に、響が可憐たちをヘッシュで守ろうとするが…

「これ以上おイタはだめよ?それとも、あんたも丸裸に…」
得意満面の瑠那、ノーリーズンで牽制するが…「ナガチカラ、ウツロヘカエレ…!」
…翔真のノーリーズンにサポートされ、響の魔法は無事効果を及ぼす。
「おイタは……ダメ、なんだよな?」ヤリ、と笑う翔真の後ろで、瑠那に向かって響が言う。
「残念ながら、そのような趣味はございませんので。悪しからず・・・」…と。
「・・・どうやら極限まで搾り取られたいみたいね・・・」
憎々しげに吐き捨てる瑠那、既に魔属の本性が見え見えである。
「……機会が有れば考えておこう…」苦笑する翔真、凛に聞こえなかったのは幸いと見るべきか。

「これで終わらせるよ!」三度、凛が跳躍し石仏を攻撃する。
「なんとか当たった〜・・・どう?」更に大きく傷が穿たれる石仏だが…
いかんせん巨大すぎる相手、まだまだ倒れない。

「癒しの水よ…その効果を現したまえ」
その間に可憐が、翔真にキュア・ウォーターを掛ける。少年がディスアペアで妨害しようとするも…
アドノレが掲げた呪符のノーリーズンがそれをかき消し、翔真もまた回復していく。

アドノレ >ディスアペア返しはMP不足でキャンセル。命の値段と考えれば
凛 >アドノレのMPが限界か・・・・・やばいな〜アドノレブースターが使用不可(^^;

上空では、瑠那と弓の空中戦が続いていた。弓の一撃が、瑠那を捉えた…かに思われたが、
『右腕』から展開したブレードは、瑠那の翼でいともあっさりと弾かれる。
「可愛い爪ね・・・それでこそ仔猫ちゃんだわ、ふふっ・・・」
「………………やっぱり、これじゃダメみたいね………」

余裕綽々の瑠那を前に、最後のデュアルブーストの準備をする弓…

その時、石仏が再度動いた。目標は…響、そして瑠那。
危ないなぁ・・・。攻撃する相手が違うでしょ」その大振りな一撃をかろうじてかわす響、
まともに喰らったかに見えた瑠那は…一瞬、その身を霧に変えた!

「ったく・・・こんなのに殺されるのはゴメンだわ・・・」
うんざりしたかのような瑠那の物言いに、弓はひとり笑みを浮かべていた。
さながら、何かの確信を得たかのように…
「………………予想どおり……ね」

弓 >ふふふ、やーっぱもってやがったか

「・・・なんだか、ボク、仏像君に完全に無視されてる気がする」
先程から石仏を攻撃しているにもかかわらず、無視された形になった凛は、
思わず翔真に不満をぶちまけていた。

「アドノレ達が大変な目に逢っているのに、その台詞は無いだろう?」
「だから、ボクを攻撃してくれればいいのに!」
苦笑する翔真に、更に突っかかる。一方で、当のアドノレは…
「これくらいではまだ修羅場の域に達しておらんからな」と、どこ吹く風でMPを回復していた。
そのマイペースぶりに苦笑しつつ、頼もしくも感じる翔真である…
思えば、今まで何度、目の前の大男はパーティーの窮地を救ってきただろうか。

響が、魔石R2を使ってプラーナを回復しているその間に。
「今度は再生の時間などやらん……!」翔真は、目の前の少年と決着をつけるべく、
炎の力を宿した『天津大鋼』を振り下ろした。その剣圧は暴徒達をことごとく吹き飛ばし、
そして…その一撃は少年をも打ち倒していた。

「……………」翔真はその刃を引きながらも、僅かだが少年に目を向ける。
そう…彼はまだ生きているだろうか?

翔真 >殺さずに済めば……ちょっと嬉しいぞ(苦笑)
GM >ぐは・・・少年は重傷値に突入!
アドノレ >いよいよ戦況に変化が
凛 >ナイス!あとは修正すれば(笑)そろそろ決着かな?

翔真が打ち倒した少年は、まだ息があった…だが、もう戦闘能力はないようだ。
暴徒達も動きを止めた今…残るは瑠那と石仏だけである。

「It heralds to the spirits of a departed person who are dwelling in the atmosphere.
According to my aria, unite spirits' of a departed person power with me,
and give the fate equally ruined in all all living creatures.」

(大気に宿りし精霊達よ、我が声に従い、我と汝の力もて、生ある物に等しく滅びをもたらさんことを!!)

響が呪文の詠唱を始め…「ボクは、こっちを仕留めちゃおう!」と、凛が石仏に向かって飛び出す。
白銀の神狐となった凛の獣爪と、響の「ハリケーン」によって、石仏は今度こそ沈黙した。

「わぉ!これでこっちは片付いたね♪」着地するや、凛は響に声をかけた。
「何とかね。怪我はない??」「翔君達に比べれば、掠り傷だよん♪」
気遣う響に、元気に返事。このあたりは凛の凛たる所以、面目躍如というやつである。

翔真 >プラーナ4、HP19、MP4…満身創痍まで後一歩(苦笑)
凛 >プラーナ44 HP61 MP29 まだまだ〜(笑)

そして、ぐっと上空の瑠那を睨み据え…「ねえ?降参する気になった?」

「ちっ・・・結局アレも出てこずじまい。とんだ無駄足だったわね・・・」
「………………さて、そろそろ喋ってくれないかしら?………何を待ってるの?」
「結局探し物はなんだったのだ」
舌打ちする瑠那に、弓とアドノレが言葉を投げかける。

「さぁて、ね・・・教えてほしいの、仔猫ちゃん?・・・・・・やーめた。やっぱし教えてあげない♪」
思わせぶりに囁くように問いかけ…そして、悪戯っぽく笑う瑠那。

「・・・まぁ、いいわ。今日のところは勘弁しておいてあげる・・・あとは、その変なヤツとでも遊んでってよ。」

「しておいてあげる、ですか? そちらが劣勢なのに」
「キミが一番大仏君に気に入られている気がするけど?」
くすくすと笑う少女達に…「あたしは不利な戦いはしない主義なの。じゃね」
言い捨て、石仏が開いた天井の破口から上空へと舞い上がる。

「逃がすわけには行きませんわ!」可憐がストロングホールドを構えたが、瑠那はとっくに射程外。
となれば、彼女を追う事が出来るのは…

「……………逃がさないっ……」
そう、天翔ける翼を持つこの少女・弓しかいない!!

「だぁあ!しつこいってのよぉ!!」
「……………言ったでしょ…逃がさない……。……鳴くのは、貴女……」
翼の出力を最大にすれば…瑠那はもうレンジ内。
『右腕』のブースターが吼え猛り、紅の空に白銀の閃光を描く!

「………………瞬殺の…ファイナルバースト…!」

『右腕』が瑠那を捉えた…かに思えたその刹那。瑠那の姿は、跡形もなく消え失せていた。
「………………手ごたえはあったけど…………鳴き声も聞こえない……また、消えたかな………」
とりあえずは勝利、なのだろうか…下界に戻ろうとした、その時!

…彼方から、突き刺すような視線。

「………………!?……気配……もうひとつ!」
弓が、その方向に振り向くと…そこは、学園街区方面に聳える鉄塔の上。


そこに立っていたのは…長い緑の髪の少女だった。

翔真 >!?
弓 >目つき悪いよそらりん!(笑)
凛 >弓の影響?(笑)
可憐 >その可能性は無視できないかと(笑)
凛 >弓・・・・・浮気した?(笑)

少女は、唯気だるげな表情を弓に向けると、忽然と姿を消す。
そして…弓はその胸中に、妙な胸騒ぎを感じる。それは何か、言いも得ぬもの…


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