【第11夜】
集結する邪
<PART−23>
後日談/敵と『彼女』それぞれの事情
その頃…ここは、ホテル…ユニバーサル横須賀のスイートルーム。
魔王ベール=ゼファー直属の配下…クラウス=フライは、ここに滞在…潜伏していた。
かつての「音界の支配者」事件の混乱に乗じて、一条家の力添えで書類を書き換え、
ウィザード達に気取られないよう、巧みに潜り込んだのだ。
ここにいれば、少なくとも彼の正体が一般に公となる事はない。
だが…今、彼は苦悶の声を上げ続けていた。
いまや異質な液体と成り果てた血液が、側頭部からは流れ落ちている。
「無様じゃない、クラウス?…あなたらしくもない」
今回、直接作戦に参加しなかった瑠那が、窓際から言葉を投げる。
そう…かつて「柊 蓮司」という名の魔剣使いに敗れ、最初の身体を失った教訓から、
トリニティのN2強化兵団の技術を利用して作った数多くのクローンを術で遠隔操作する事によって、
ウィザード達の追及を今まで逃れてきたのである。
だが、そのクラウスにとって…この状況は、まさに予想外だったのだ。
「黙れ…アストラル=リンクを貫き、本体であるこの私にダメージを与えるなど…あり得んはずだ」
吐き捨てるように、クラウス。そう、その頭には踏み抜かれたような傷が残っていた。
湘南国際村で、クローンが【そら】に受けた痛撃である。
「だから言ったでしょ? あの緑の髪の女は危険だって」瑠那が、言葉を継ぎ足す。
「命令を受けて衣笠であいつを襲ったけど…見事に返り討ち、部下は全滅。
あの時、あんた人のこと随分莫迦にしてくれたじゃない?」
「…幾らなんでもこんな事態はありえんと踏んでいたんだがな?」苦笑するしかないクラウス。
「で、結局ジョシュアも紫電も任務失敗、被害でかくて退却…ってねぇ。」
いつもクラウスにいいように扱われているだけあって、こういう機会は見逃さない女夜魔である。
「まあ、あの連中は最初から囮だ…秋葉原と武蔵野から目を逸らさせるためにな。
…実際、今回はナイトメアのような大物まで動かしたのだから、よしとしようではないか…」
「呆れた……この期に及んで負け惜しみ?」
「…だからお前は莫迦だというんだ…実際、あの娘の力を見られただけでも儲けものだ。
後に備えての仕込みも済ませた…長期的に見れば、今回は敗北などではないのだ」
クラウスの傷は既に再生し、その手は再び仮面を付け直していた。
その勢いで、瑠那をベッドへと押し倒す。
「あんっ、もぅ…好きなんだからぁ…」瑠那はしかし、逆らわない。
異質化したクラウスからプラーナを得られはしないが、快楽だけは貪れるのだから。
「あの娘達をこうできないのは残念だが…まぁ、楽しみは取っておくものだな…」
彼らの夜は、なおも続いていた。
◆ ◆ ◆
そして、同じころ。
…どこかの月匣の中で、無数のエミュレイターの死骸に囲まれて、
血まみれのままひとり佇む、問題の少女…1本減ったその手には、いくつかの魔石。
『これで、人と人とが…トモダチが、争わなくなるなら…』
くすんだ微笑と共に、血まみれの魔石を袋に詰め、月衣に収める。
『私には…これが、せいいっぱいだから…』
その視界は、既に次なる戦場へ。躊躇は、ない…
そんな戦いを、彼女は最近幾度も続けていた。
彼女の持つ『力』をめぐり、何人かのウィザード達が争ってから。
その経緯は月アタ104「密着!そらりん24時」参照である。
ひとりは「彼女の力は危険だ」といい、また他の者は「友達を傷つけるものは許さない」と反駁した。
現時点の【そら】自身にとって、彼らは等しく『護るべきもの』…
なぜ争うのか? それが、彼女には理解できなかった。
そして、先のMonAmiでの談合以来、彼女の中にはひとつの疑問が存在していた。
『わたしは………【敵】か……?』
その答えは、まだ見えない…ただ、戦い続ければ必ず答えが見えるはず。
あの日あの時、壊された『記憶』の果てに…おそらく、それはあるのだろうが…。
弓 >で…そらりんが例によって自爆技で敵を倒そうとした一瞬前に…上空から飛来して、なぎ払いたいです(笑)
「…………………………Dアームズ…クワドロプル…バースト!……」
そら >「OVERRAGE……………D=PHOENIX ACTIV……!?」ジェネレーター暴走直前に静止(爆)
弓 >「…………そら………」
そら >「………………………弓さん………?(見上げ)」
弓 >「………また…こんな戦いをしているのね………(かなり、不機嫌そうにそらの前に降りてくる)」
そら >「私は、これしか…知りません、から(にこ)」
弓 >「……一度、言わなかったかしら……?……私を呼んで…って」
そら >「強制放熱……」周囲に排気と陽炎が。「……行きましたが……いませんでした」
弓 >「………0−Phoneだって渡したはずよ…………そら…私が不機嫌なの…わかる…?」
そら >「………………フキゲン……………?(首かしげ)」
弓 >「…(ふぅ、とひとつ溜息をついて)……アナタがそんな戦い方をしているから、よ…」
そら >「……………でも、私には……他に、方法がないのです……」
弓 >「……私は、アナタに戦うな、とは言わない…傷つくな、とも言わない…戦う手段を選べ、とも言わない…………D=PHOENIXだって…使うべき時ならば使って構わないと思っている……、……でも……戦い方は選びなさい…」
そら >「………………………私は……………………………危険な存在、だそうです………」
弓 >「…………あなたは…自分を何だと思っているの…?……そら…。……守護者…?……戦士…?……それとも…道具?」
そら >「正式名称……インフィナイト=シリアルナンバー…不明、所属は・・・楠ヶ浦学園騎士団<ノルン>…………………………………少なくとも…………『人』ではあり得ません……」
弓 >「……それはアナタに「与えられた役割」であって、アナタが『何者』なのか…じゃないわ。…ヒトであるとか…ヒトでないとか…それも関係ないわ。…それを言うなら、凛だって、私だって、人間という存在の定義からは外れている」
そら >「あなたたちは……『生きている』から……それが、わたしとの……違い……」
弓 >「……死んでるわ、私は……15年前に、一度…。…そもそも…どういう状態が「生」でどういう状態が「死」なのか…それを定めるのは…裁定者の仕事ね(くすり、と)」
そら >「あなたは……『生きて』います……それは、私が……知っている、こと……」
弓 >「………私の質問は……アナタが…どういう意思で……どういう立場で…戦いに臨もうとしているのか…あなた自身の考えを…聞いているのよ…」
そら >「わたしの存在理由は……エミュレイターの排除………そのために必要であれば、ウィザードへの支援行動……不可能であれば、単体で……執行します……」
弓 >「………………………………………違うわね………すくなくとも…さっきのあなたは…そんな立派なお題目のために戦ってるようには見えなかったわ……。……あれはね…無茶って言うものでも、無理って言うものでもない………自棄っていうのよ。」
そら >「…………なぜ、そう言いますか……?(首かしげ)」
弓 >「…………あるヒトが…私に教えてくれた……。……道具では勝てない…戦士になりなさいって……。…その時は……わからなかったけど…今の貴方を見ていると…わかる気がする。…今のあなたは……道具にすら、なれてないわ……(そっと抱きしめ)……この意味…わからない…わよね……」
そら >「…………ごめんなさい……実は、私は……相当壊れているのです……たぶん。」
弓 >「……壊れてるのは、私もいっしょ……(す、とそのままそらの後頭部を撫でながら)……あなたは、今、自分の力の使い方を…きっと、間違えてる………」
そら >「あなたは……『生きて』います……『変えられて』いますけど……壊れては、いません」
弓 >「……(くすり)…それを、壊れかけっていうのよ。…」
そら >「あなたは……壊れては、いません……私が、壊しません……(にこ)」
弓 >「…(ふ、と微笑んで)…そら、それはアナタが『決める』ことじゃないの…私のことは、私が定義する。…あなたも、そうでしょう?…他の誰がなんと言っても、あなたは戦いを、止めないでしょ?(くすり)」
そら >「私は……『約束』のために……全力をもって、戦う……のです……」
弓 >「……そら、ひとつずつ、教えてあげる、戦い方を………。…アナタは、自分の不死性に頼りすぎなのよ。」
そら >「…………………………(何かをチェックしているかの様子)……………搭載兵装……欠損……」
弓 >「……そういう時こそ、武器を、道具を使うの。…あと…不死性に頼りすぎるから、防御や回避がおろそかになる…攻撃も大雑把だし…隙をうかがうこともしないから、効率よくダメージを与えることもできない……」
そら >「私には……想定されていた装備は、ほとんど……残っていません……失われています……」
弓 >「…それならなおさら……戦い方は選ばなきゃ…。……途中で倒れたら……意味がないでしょう?」
そら >「わたしは、…………………だいじょうぶ……(にこ)」
弓 >「………だいじょうぶ、じゃないわ…。……そら…『私は死なないからだいじょうぶ』なんてのはね…なんの保証にもならないの。…だから、みんなああやって心配して、余計な気を回すのよ……」
そら >「…………事実、ですが……?」
弓 >「…(ふるふる、と首を振る)…最初に私と会ったとき…あなた、ボロボロだった……アメリカの時は…一度、完全に停止してる……。………あなたでも劣化するし…停止する………自分で言ってるじゃない……いくつかの武装が破損してるって。…それはつまり、アナタの不死性は完全なものではないってコト。」
そら >「………………………………………………………………………………………それでも、よいのかも……………しれません」
くすんだ微笑を浮かべ、少し黙った後…【そら】は自らの疑問を口にしていた。
そら >「………………少し前に、聞きました………『私』の存在は…………世界の脅威、らしいです……………」
弓 >「…そうね(と、あっさり頷いて)……でも、私には関係のない話だわ…」
そら >「……………あの日、映像に……写っていた、のも…………たぶん、私……である可能性が高い……です。そして…………敵は、倒さなければ……なりません。そのためには………いかなる損害も、度外視……されます。」
弓 >「……話をそらさないで…今、言いたいコトはそんなことじゃないの…。…吸血鬼だって、神、魔王であっても……『殺す』手段、方法はあるのよ。…たぶん、あなたの不死性を停止させる方法もね………そうでなくても……あの船の時みたいに、あなたを切り刻み続ければいいだけのことよ……」
そら >「では…………弓さんは、わたしを、止めます……か?」
弓 >「………止めないわ(きっぱり)」
そら >「それなら……問題は、ありません(にこ)」
弓 >「…だからね、そら…『死なないからだいじょうぶ』なんて戦い方は…非効率的で、非能率的だって言ってるの…それを改めなさい。」
そら >「…………では、フュージョンキャノンの使用を……最優先すれば、よいのでしょうか……?」
弓 >「……それも違うわね…必殺の一撃っていうものは、乱用すればするだけ、「必殺」じゃなくなる……より研究され、対策が取られる…。」
そら >「私には…………他の装備は、ありません……エナージョンブレイドは……形成不良により……一時的生成のみが、可能です……」
弓 >「………そうね……なら……やっぱりアナタは『死なないからだいじょうぶ』なんて戦い方はしちゃダメだと思うわ………あなた、『約束』したんでしょう?…あの、沙弥と……」
そら >「わたしが存在する限り…………その先に続く……生命を、守ること……(すっと瞳を細め、遠くを眺めるように)」
弓 >「………そら…そう誓ったのなら…あなたは生きなければいけない。…1ミリでも、1秒でも『生』に近づくよう、努力して、足掻かなければだめ……これは…私のお願いでも、命令でもない…。……そういう約束を交わした者に課せられる、義務よ」
そら >「でも、私は……『生きて』はいません……」
弓 >「…でも、『存在』してる。…その状態を私が『生』と表現しただけよ。…そういう約束だったんでしょ?存在の続く限りって」
そら >「………………」
弓 >「………………私は……そう誓った。……あの日、アナタが……沙耶の墓を…見せてくれた時に……。……ドクと別れた……あの日にも………沙弥に…ドクに…この命は生かされた……そして、私に課せられた役割が『闘い』であるなら……私も、もう一度死ぬその時まで、最後の瞬間まで闘い続けよう、って……」
そら >「……………………………………(ぎゅ、と抱きしめる)」
弓 >「……別に私も…アナタとは違う意味で、死ぬことが嫌なわけでも、命を惜しむわけでもないけど……それでも…そうしようと……コワレタはずの私のココロは…自然と、そう思ってたの………そうしなければ…約束を裏切ることになるから。……そらも、そんなのは嫌でしょう?」
そら >「それは……あなたが、『生きている』……証……私には、その……『生きている』ものは、ありません……」
弓 >「………じゃあ、聞くけど…そら……あなた、『死んでる』の?」
そら >「……………………分かりません……少なくとも、皆さんのように……『生きて』は……いません」
弓 >「……『死んでいない』なら『生きてる』って定義することだってできるわ……そんなの、言葉の使いように過ぎないわ…(ふ、と軽く微笑して言い捨てる)……『死んでる』ってのは『無』ってことよ…(ひょいと石を拾い上げて)…ここに『存在』しているこの石も『生きてる』って言えるわ…」
そら >「…………わたしには……………わかりません…………ごめんなさい………(視線を落とす)」
弓 >「………あなたは1秒でも『生きてる』時間を延ばす努力をしなければ、ダメ…。……そしてそれを縮めるような行為は…可能な限り、避けなければいけない……」
弓は、す…と体を【そら】から離し、そのあたりの瓦礫の中から、
手ごろな長さの鉄パイプをへし折ったりして調達し…【そら】に渡す。
弓 >「……これ、使っていいわ。…仮にこれが強力な剣として……敵が私と仮定して……どうする?」
そら >「私は…………あなたを、傷つけません……」
弓 >「…(溜息ついて)…仮定の話よ、訓練。……」
そら >「……訓練……?(首かしげ)」
弓 >「………まずは…『隙』を見つけることを覚えて…その『隙』に応じた攻撃を使う……まずはこれを…頭と、身体で覚える。……それは……私が教えてあげる……。…足りない部分は…私があなたの武器になる…………」
そら >「………(首を横に振り)……あなたは……私の、武器になっては……いけません。私が……あなたの、武器……には、なれます」
弓 >「…(微笑して)………じゃ、なおさら上手く戦えるようになってもらわないと……今のままじゃ、そんなの、許してあげないわ…(クスクス)」
そら >「……………許す……?」
弓 >「…そう…あなたが戦い方を上手くなってくれるまで、私がアナタの武器。…上手くなったら、交代してあげる(くすくす、といぢわるっぽい微笑)」
そら >「…………それは、いけません……(首を横に振り、寂しげに瞳が光を放つ)」
弓 >「……あなたが何を言ってもダメよ?決めたもの(くすくす)…」
そら >「わたしは……あなたを、失っては……いけない……命あるものは、まもらなければ……」
弓 >「……(微笑をやめて、真剣な瞳で見返して)……失われないわ、そら……『私は死なないからだいじょうぶ』………」
そら >「わたしは…………あなたを、守ります……(ちゅ)」
弓 >「……ええ…だから…私はあなたの武器になる……(珍しく…優しく、そっと触れるだけのキスを返して)…」
そら >「……………でも…………私には、武器が……欠けています。このままには……できません」
弓 >「……だから、言ってるでしょ…私が武器……コワレかけで、道具な私達は…2人で1人くらいの計算でいいわよ(くすり)……あなたの兵装のことなら……社に戻って、なにか探してみましょう?……あなたが扱えそうな武器を…」
そら >「……………………あなたは……わたしの、欠片を……持っています……だから、だいじょうぶ(にこ)」
弓 >「………アナタは、私のチカラ(プラーナ、とルビを(笑))を持ってるから、あなたもダイジョウブよ…(くすり)…行きましょ…ちゃんと、戦い方…教えてあげる…」
そら >「私は…………人の意思を、拒絶する……権利を、持ちません……」
弓 >「……戦うな、Dフェニ使うなって言っても、拒否するクセに……都合良すぎよ?(くすくす)」
そら >「…………充分な説明が……あれば、承諾……できます」
弓 >「…効率が悪い(くす、と)…使うべき時ならいくら使ってもいいけどね…」
ふたりの少女は、なおも月匣を進む…
弓は、片腕だけになった【そら】を護る武器となって。【そら】は、その弓のポテンシャルを引き上げて。
…やがてふたりの闘いは、少しずつ…連携のとれたものへと変わっていったのだった…。
魔王・ベール=ゼファー配下の第一次攻勢は、
多大な犠牲を払いながらもウィザード達の辛勝に終わった。
だが、彼らがこのまま引き下がるとは思えない。
秋葉原と武蔵野で、彼らが進める計画…更に、ディメンジョン=ガジェットを狙う次なる手とは。
それに対抗すべく結束を始めたウィザード達…そして、『ディー』や謎の少女の動静は。
風雲急を告げる情勢は、なおも加速の一途をたどり…
PREVIOUS CHAPTER |