【第12夜】
魔の片鱗

〜黒き星の皇子/NWOS版〜

<PART−02>



序章・【そら】と2人のトモダチ
〜その2〜


【そら】と翔真…ふたりの会話は、なおも続いていた。

翔真 >「……聞かせてくれるか?色々と、そらの事を。聞いて、もっと知れば、何か助けになれる事が見付かるかも知れん……(苦笑)」
そら >「…………………わたしは……インフィナイト=シリアルナンバー……不明、所属は……楠ヶ浦学園騎士団<ノルン>……【そら】と最初に呼んだのは……『沙弥』です……わたしの、トモダチ……唯一の、パートナー……」
翔真 >「……(頷く)」
そら >「…………16年前、『沙弥』は……『マリキュレイター』……ですか?あの……映像で見た敵と、戦って……死にました。戦いの経緯は……ごめんなさい、記憶が……断片的にしか残っていません」
翔真 >「いや、仕方ないさ(苦笑)……どんな些細な事でも良い。お前さえ良ければ出来るだけ全部……聞かせてくれ。」
そら >「私は……海の底で、再生しました………けれども、帰るべき学園は……もう、ありませんでした」
翔真 >「(海の底!?と言う事は……まさか……!)」
そら >「………………………ただひとつ、『沙弥』と私の……思い出の場所は、変わらないで残っていました……だから………あの場所に、私は……『沙弥』のお墓を……立てました。死んだ人には……お墓を作るものだと、『沙弥』から……聞きました、から……」
翔真 >「……あぁ……そうだな……(儚笑)」
そら >「帰るべき……場所は、なくなりました……ので、私は……それから、ずっと……この街を、歩きました……………けれど、私は……………どこにも、いられませんでした……」

「…………私は……最初から存在しないはずの、もの……でしたから」

言うまでもない事だが、【そら】は楠ヶ浦学園の秘匿兵器【インフィナイト】…無論、戸籍などあろうはずもない。
まして、楠ヶ浦学園が消滅した後とあっては…彼女を証明するものは、なにひとつ存在しない。
…そう、彼女は「存在するはずのないもの」であったのだ…。

翔真 >「何故……あ、いや、良い。進めてくれ……。」
そら >「…………エミュレイターを発見し、戦いながら……臥龍学園に来て、あなたと……出会いました」
翔真 >「(頷く)」
そら >「……その後は、知っての通りです……」
翔真 >「………普段、月匣とか見つからない時は、何をしている……?」
そら >「……………『沙弥』のそばにいます……あと、五月堂………呼ばれれば、微さんや……弓さんのところに、いきますが……」
翔真 >「………Mon Amiにも行っているな(フッ)……他には?」
そら >「……………………特に、ありません(きぱ)」
翔真 >「そうか…………他に何でも、俺がお前に関する事でまだ知り得てないことは思い付くか?(笑)」
そら >「………………『欠片』のことでしょうか……」
翔真 >「『欠片』?……どう言った事だ?」
そら >「……………あの戦いで……私が、使った……力のこと……」

第11夜参照である。

翔真 >「……MEGA Evolution……だったか?」
そら >「そう……何故、翔真さん達が『欠片』を持っていたかは知りませんが……存在を確認したので、使いました」
翔真 >「『黒鋼』の中で……剣匠に譲ってもらったのだが……。」
そら >「………………『黒鋼』……『剣匠』………?………微さんには、もう伝えましたが………『欠片』は、わたしの……身体からしか、造れません……」
翔真 >「あぁ、髪が金色で俺にそっくりだった奴が居ただろう……そいつが持っていた剣、『病鋼』の元にされた…鋼の片割れだったものだ。『剣匠』はそこに居た俺の師匠の兄だ。」
そら >「………そうだったのですね……私は………そのエミュレイターに、手足を……斬りおとされましたが……」
翔真 >「……アレは……そらの血か何かか……?」
そら >「………………そのようなものです……そして、『欠片』がその能力を解放することで……ウィザードは、より巨大な敵と戦う力を手に入れる事が出来ます」
翔真 >「アレだけの力だ……お前にかなりの負担が掛かるのでは無いのか……?」
そら >「だいじょうぶ、です(にこ)」
翔真 >「大丈夫、と。掛からない、と言うのは違うぞ?(苦笑)」
そら >「『欠片』は……ウィザードが持つ力を、わたしの力に乗せて……増幅するだけ、ですから……そして、『欠片』と……特別な契約をもって、わたしは……ウィザードと、ひとつになれます。」
翔真 >「……それで、『沙弥』とはひとつになった事は有るのか……?」
そら >「はい……何度も……何度も……わたしたちは……『沙弥』は……私を、大事にしてくれました……いつも、一緒だった……」
翔真 >「………マリキュレイターと戦おうとした時は……?」
そら >「……………………はい、一緒……でした。」
翔真 >「………ならば、『沙弥』嬢が“護らないで“と言った時は一体何が相手だったんだ……?」
そら >「………………マリキュレイター………その内部……………………………………………ごめんなさい………はっきりと、残っていません……」
翔真 >「いや、思い出せないのは仕方ない。気にするな(苦笑)」
そら >「……この能力は、現在………ロックされていて、使えません。原因は……不明です」
翔真 >「そうか……何となく………おぼろげながら推論が立てられそうになってきた……(フッ)」
そら >「…………フルメンテナンスを受けられれば……原因も判明する、はずなのですが……」
翔真 >「………杉崎博士……探して見るか……?」
そら >「……………………『沙弥』と一緒の頃は……金沢八景に、住んでいましたが……今は、その家は………ありません、でした……」
翔真 >「……同じ苗字を持った人が知り合いに居る、一応聞いてみるさ……ただし。」
そら >「……………?」
翔真 >「……『お前がフルメンテを受けたい』、と自分の意思で言うならば、だ。」
そら >「……………しかし、私は……要請を受けていません……」
翔真 >「ならば尚更だ。お前が自分の意思で、それを必要とするか、必要としないかを決めるんだ……護りたいと思う者達が居るなら、自分で考えて、自分で決めるんだ。」
そら >「……………わたしの、『意思』……ですか? 確かに、メンテナンスは必要ではありますが……しかし、私からそれを求める事は出来ません……」
翔真 >「………一応、何故?と聞かせてくれ。」
そら >「私は……戦闘行動を度外視すれば………私を運用するウィザードの要請と、承認によって……行動します。」
翔真 >「………今は誰も、お前を専属として運用しているウィザードは居ないと思うが?」
そら >「…………それが問題なのです。指示系統がないので……行動が、できません」
翔真 >「………無いならなおの事、自立判断の必要が有ると思わないか?」
そら >「しかし……ウィザード支援ツールである私が……自分の本分を、離れることは……許されません」
翔真 >「……『沙弥』嬢は、トモダチだと言っていたが……お前の主(あるじ)のような者でもあったのか?」
そら >「はい………私の『マスター』……でも、『沙弥』は……『マスターなんて、恥ずかしいからトモダチと呼んでほしい』といいました、ので……従いました」
翔真 >「そらは、『トモダチ』と言う言葉の意味を知っているか?」
そら >「…………………大切な人…………『沙弥』が……弓さんが、教えてくれました」
翔真 >「(溜息)………そうか。そう言う意味で捉えているなら良い……。」
そら >「私にとっては……すべてが『トモダチ』です……だから、『沙弥』が一番のトモダチ、なのです……」
翔真 >「…………………マスターだから、か?」
そら >「はい………………………なにか、間違っていますか……?(上目遣い)」
翔真 >「……あぁ、間違っている。いや、ひょっとしたら俺の勘違いで間違っていないのかもしれない……。」
そら >「……………………?」
翔真 >地面に書きながら(笑)「『沙弥』嬢はお前にとって(マスター=トモダチ)で、他の皆は(トモダチ=大切な人)。だから『沙弥』嬢と他の皆はイコールでは無いと言う事は有るか?」
そら >「…………わたしにとっては……すべてが、護るべき対象……です」
翔真 >「……………………………………………」
そら >「……………………………なにか、間違っていますか……?(上目遣い)」
翔真 >「ある側面ではあっていると思う……だか間違っていると言える所も有ると思う……。」
そら >「……………………よく、わかりません……」
翔真 >「……『沙弥』嬢は親友で、他の皆はトモダチか?」
そら >「………………シンユウ……?」
翔真 >「トモダチの中ででも、特に親しく……大切に思う友達の事だ。そうそう簡単には得られないものだ(笑)」
そら >「………それは……最も重要な、トモダチ……のことですか?」
翔真 >「そうだな……そう言っても間違いじゃないだろう。」
そら >「では……『沙弥』は、私の……親友、です」
翔真 >「マスターだから、と言う理由を抜きにしたらどうなる?」
そら >「…………………わかりません……」
翔真 >「……………(嘆息)」
そら >「…………………………ごめんなさい……」
翔真 >「いや、良い。俺も少し焦り過ぎの様だ……(苦笑)」
そら >「…………なにを、ですか……?」
翔真 >「そらも『親友』と言う言葉の意味を知ったからな、これも確かなそらの前進……成長だ(フッ)」
そら >「……………………ありがとう、ございます……」
翔真 >「…………礼を言われるほどでもない、色々こちらも聞かせて貰った……。」
そら >「…………………聞かれましたので、話しただけ……です。怜さんも、弓さんも……微さんも、そうはしませんでした……から」
翔真 >「………………」
そら >「…………皆さんは、皆さんのことを話しますが……私の事は、聞きませんでした……………だから、必要がないものと判断していたのです……」
翔真 >「そうだな……考えて見れば当たり前の事だよな……お互いの理解を深めて、より親密になりたいなら、お互いの事を知るのが必要な事だと……。」
そら >「……………話したのは、翔真さんが最初……です」
翔真 >「………正直、嬉しいと感じている(笑)」
そら >「…………ウレシイ、ですか……?」
翔真 >「あぁ……喜んでいる(フッ)」
そら >「………………喜ぶ、ことは……トモダチの、平穏が……護られている、証……」
翔真 >「それに、前にお前が感じた『感情』の一つだ……。」
そら >「………………感情………」
翔真 >「あぁ、『ココロ』から溢れて来るものだ。」
そら >「………私は、感情……を、持っているのでしょうか……?」
翔真 >「そう思う。そうで無ければ『嬉しい』と感じる事は無いだろうし、親友の死を哀しむ……悼む事も無いだろう……。」
そら >「わたしは…………わたしは……感情を……持っている………………」
翔真 >「あぁ………持っているとも……俺はそう信じる……。」

その時、【そら】の体に異変が生じた。
胸の奥から湧き上がってくる、それまでに知らなかった力…熱…
とどまるところを知らぬそれは、彼女の髪を反応させ、緑色に輝かせていた。

そら >「………………ぁ…………いま………私に、力が………流れ込みました………翔真さんの……『欠片』が…………わたしに……巨大な、力が……わたしを……」
翔真 >「新しい力か……失っていた力か……俺がお前に力を与えてやれるなら……助けられるなら……何でも、持って行け……!」助けようと抱きとめます(笑)
そら >「………わかりません……判断……不可能………制御が……ぁ……(ぐずぐずとへたり込む)」
翔真 >「そら……!」
そら >「ぅあ…………っ……そんなに、流し込んだら……わたしは………っ……(全身の血管に沿って発光が広がる)」
翔真 >「っ……す、済まない……大丈夫か、どうすれば良い……(汗)」
そら >「……ぁ……ぁうっ………あっ………Pフル−ド、強制放出……っ!!」

【そら】は何度か痙攣し、全身から…光を帯びた霧を放出する。
その輝きの中で…彼女は落ち着きを取り戻していた。
とはいえ…発熱し、濡れた肌は上気しているようにも見える…

そら >「………………ぁ……………だ、大丈夫です……なんとも、ありません……」
翔真 >「………………大丈夫か?」ちょっとだけ強く抱き締めちゃうです(爆)
そら >「……ぁ…………(ぴくり、と体が動く)」
翔真 >「あ……済まない、痛んだか……?」力を緩めます。
そら >「………大丈夫、です…………凄い力が、『欠片』から流れ込んできて……一時的に、何も判断が……出来なくなった……だけです」
翔真 >「そうか……しばらく大人しくしていろ……落ち付いたら言ってくれれば良い。」背中を支えておきます
そら >「でも…………まだ、流れ込んできます……少しずつ……これは、悪い事では……ありません(穏やかに、どことなく甘えたような微笑み)」
翔真 >「なら良いが(苦笑)……俺の中に有る欠片から流れ込んだ力で、お前に害が有ったりでもしたら……。」
そら >「いえ、弊害ではありません……むしろ、逆の効果が……私の身体に、起きています」
翔真 >「そうか……どう言ったものか、解るか?」
そら >「力が……溢れてくるのです。とても純粋な……力が……私が必要とされている、という……」
翔真 >「……………………」黙ってそらの手を取ってみる(笑)
そら >「………………ぁ……(ビクッ、と手が僅かに動く)………え、エミュレイターと戦っている、訳では……ないのに……」
翔真 >「?………どうした?何か有ったのか?」
そら >「……ひとつ、わかりました…………………求められれば、求められるほど……わたしは……」
翔真 >「……………………」
そら >「……………わたしは、その人の……力になる、ことができる……」
翔真 >「………俺も、お前の力になるさ。お前が求めてくれるなら、望む限り、可能な限り……いくらでもな(フッ)」
そら >「翔真さん………………まだ、流れ込んできますよ……?(やや照れたような微笑)」
翔真 >「………俺の所に来るか?収まるまで、休んで行けば良い。」
そら >「…………はい……今日は、弓さんも、微さんも……いませんし……その言葉を、拒む理由が……見当たりません……」
翔真 >「………後ろに乗っていけ、落ちない様に捕まっていろ。」
そら >「……………はい……」

そして、その後…翔真は【そら】を、ひとりの女の子として…愛するべき者として扱った。
そして、【そら】は…それまで知らなかった『人としての喜び』を、教えられた…


PREVIOUS CHAPTER NEXT CHAPTER

インデックスに戻る