【外伝・第1章】
惨劇が残したもの
<PART−10>
【そら】と『沙弥』
その夜。喫茶「エトワール」新横須賀店に、翔真と真琴の姿があった。
互いの近況などを話し合う2人・・・真琴は、ここで不意に話題を変える。
真琴:「翔真君、あなたには・・・見せておいた方がいいかもしれませんね」
翔真:「一体何だ、改まって…?」
真琴:「まあ、何を言うより見てもらったほうが早いでしょう・・・」アルバムを差し出す
翔真:「……」アルバムを見る。
セツから託されたアルバムには、智律や【そら】に似た少女『沙弥』の写真があった。
翔真:「………そらには何か、言っていなかったか?」
真琴:「・・・まだ、言っていません・・・(首を振る)それに、そらちゃんのことは知らないようでした・・・。その娘さんは・・・15年前に亡くなったそうです・・・」
翔真:「……何処まで、何が解った?」
真琴:「そして・・・・・その子の思いの人の名前が・・・・・・」少し葛藤・・・
「首藤・・・」
翔真:「何!?」
真琴:「あなた達が倒した男かどうかは、分かりません。ただ、この少女『杉崎 沙弥』の思いの人であったのは確かなようです・・・」
翔真:「俺が殺した……あの『裏切りのゴールデンハウンド』……あいつが…(呆然)。」止めを刺したのは弓ちゃんですが(苦笑)
翔真は、その時の事を思い出し…そして、ひとつの事実に思い当たった。
翔真:「!思い出したっ、奴は最期に言っていた。『私も、君のところ…へ…いくのか…すぎ…ざ…』と…。」
真琴:「この写真に写っている杉崎沙弥は・・・そらちゃんの持つ写真にのっています。そしてそらちゃん自身はあの写真にのってはいませんから・・」
翔真:「『杉崎 沙弥』、それがそらの本名かもしれない、と…。」
真琴:「・・・そらちゃんの最初の友達なのかもしれません・・・」
翔真:「そうか………同一人物ではない、か。」
真琴:「あと・・・・・一度だけ・・・ある魔法がとんでもない効果を発揮したことがあります・・・・」
翔真:「何が有った?」
真琴:「コンヴィンス、この魔法の効果・・・ご存知ですよね?」確認するように
翔真:「あぁ、弓ちゃんが目の前で使った事が有る。」
真琴:「調子が悪いといっていたので、一時だけでもと思ってかけてみたんですが・・・・」
翔真:「……?」
真琴:「かけて・・・暫くボーっとしていましたが・・・・・・・」一旦区切って
翔真:「……」
真琴:「そらちゃんがそらちゃんではなくなっていました・・・そう、記憶を失った人間がはじめてそのことに気づいたような反応をしていました・・・」
翔真:「……名前は?何と?」
真琴:「(首を振って)わかりません、その『そら』ちゃんは名前も忘れていました・・」
翔真:「……難しいな。どんな事を喋った?…いや済まん、大人しく聞こう……。」
真琴:「ええ、ですからコンヴィンスで状態を便宜上『戻して』杉崎沙弥さんのことを聞いてみようと思ったのですよ」
翔真:「……そうか。」
真琴:「すみません、突発的なことだったので・・・恥ずかしながら私も良く覚えていないんです・・・」
翔真:「いや、仕方ないさ。それに残念ながら俺では今の所役に立てそうに無い……済まん。」
真琴:「なぁに、単なる愚痴ですから(くす)」
翔真:「たまに位なら聞いてやる、遠慮無く愚痴れ(苦笑)」
真琴:「ありがとう(微笑)
翔真:「火狩の愚痴を聞く時は酒が入るからな、それが無いだけでも十分聞きやすい(ニヤリ)」
真琴:「では次の時は酒を用意いたしましょう(くす)」
翔真:「……酒は諒太狼の所の一件で懲りた…勘弁してくれ(鬱)」
真琴:「冗談ですよ(くすくす)・・・・・・それに、私は酔い難いのでね」
翔真:「……心臓に悪い…(嘆息)」
真琴:「そいつは失礼・・・(くす)」
翔真:「『酔われる前に酔え』、だったか?酒のみの教訓とやらは?(フッ)」
真琴:「『酔われる前に酔って絡め』、の方が適切かと(くす)」
翔真:「始末の悪い教訓だ(苦笑)」
真琴:「・・・(くす)・・・それで先の一件ですけど、私よりも前からそらちゃんと出会っている翔真君に、教えておいた方がそらちゃんのためだと思ったんですよ」
翔真:「(頭を振る)………俺はあいつに何もしてやれない、一人の剣士として、あいつと共に戦ってやるくらいしか出来ない。あいつの心を、魂を、想いを救ってやる事等…出来はしないのさ、俺には。」
真琴:「誰かを救うことができるなんて、そんなこと誰にもできませんよ(くす)」
翔真:「……そうだな、おこがましい物言いだったか(苦笑)」
真琴:「それでも、戦わないよりは良いでしょう?(くす)」
翔真:「放っておくとこっちの心臓に悪いくらいの怪我を毎度と無くしそうだからな(嘆息)」
真琴:「まったくです。女の子なのですからもう少し自分をいたわって欲しいものです(ふぅ)」
翔真:「全くだ(苦笑)」
真琴:「・・・そういえば・・・・・コンヴィンスをかけたとき・・・・・・・・その場に智律君もいたんですが・・・・・・・・私達のことを『知りませんでした』」
翔真:「完全に『今』の記憶と本来の記憶が切り離されているのだろうな……最悪の場合、『人格』そのものが切り離されている可能性も有り得るか…。」(思案顔)
真琴:「あと、酷い頭痛を訴えてましたね、そういえば・・・」
翔真:「……治癒魔法でも癒し切れない何か深刻な障害を負っている可能性も有る、か…。」
真琴:「(こくん)それと、そらちゃんは本来の機能を取り戻していないと言っていました・・・・それがどういう事かは・・・・」
翔真:「記憶の混乱……だけでは無いのかも知れないな……。」
真琴:「ええ、そらちゃん自身に記憶を取り戻したくない何かがあるのかもしれません・・・」
翔真:「それが理由で無ければ良いのだが…。それに、首藤が言っていた『惨劇の遺産』。この言葉についても未だに何もハッキリしていない…。」
真琴:「『惨劇の遺産』ですか・・・確かに気にはなりますね・・・」
翔真:「そらの着ている制服を見てそう言っていた。あの制服を着るのも約束だとそらは言っていた、その辺りにも何か有ると思うのだが…。」
真琴:「そうですね・・・・・・彼女の約束・・・色々とありそうです」
翔真:「一筋縄じゃ行かないのは相変わらず……気長に行くさ(苦笑)」
真琴:「まあ、コンヴィンスは所詮一瞬だけしか戻りませんが・・・・あれを使えば・・・」
翔真:「……どうするつもりだ?」
真琴:「さて、奇術師にやれることを、やってみようかと思いまして・・・・今はまだ無理ですがね(苦笑)」
翔真:「……余り焦るなよ。俺が言っても説得力に欠けるだろうが。」
真琴:「なぁに、私は身の程はわきまえていますよ(くす)」軽く一礼
翔真:「……なら良い(笑)」
真琴:「ああ、最後に一つだけ・・・『最近、特に・・・身体が・・・うまく、動きません―――ダメージが、増えるのは・・・そのため、です』確かこう言っていました・・・。守ってあげてくださいね(微笑)」
翔真:「………大人しく護られてくれれば良いのだが……努力する。だが声色を使うのは止めてくれ……いきなりだと驚く(苦笑)」
真琴:「おや、顔まで変えたほうがお好みでしたか?(くす)」(違)
翔真:「尚更勘弁願うぞ…(苦笑)」
真琴:「そちらの方も、『世界創造の神様』の件、よろしくお願いしますよ(くす)」デミウルゴスのことね(笑)
翔真:「あぁ、解った。」
真琴:「全ては・・・少しずつかみ合って・・・・・最後に一つの絵になる・・・・・そんな気がしますから(くす)」
翔真:「……最期の1ピースまでどんな絵になるか解らなそうだがな(苦笑)」
真琴:ばっとトランプを開いて「・・・だからこそ・・・・・面白いんでしょう(にこっ)」
翔真:「かもな(フッ)」
真琴:「それでは、そろそろ私も帰ります。そろそろ開演時間も迫ってきているのでね(くす)」
翔真:「あぁ、またな(ニヤ)」
真琴:「それでは、よい夢を(微笑)」
かくして、2人はそれぞれの帰宅の途についた。
だが、【そら】と共に侵魔と戦う翔真、すべての裏側から真実を追い求める真琴、
その2人とも…今話し合ったばかりの情報が、どれだけの「意味」を持っているか。
いまだ、それを知るべくもない…。
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