【第38夜】
人と魔の間に
<PROLOGUE>
それは、平行世界「イルメーシュアの森」が、世界結界からの分離を果たした頃のこと。
ほどなく離れた久里浜再開発地区に、「希望の園」という名の養護施設がある。
その管理棟の一室で、静謐の夜闇に包まれて、事態は静かに始まろうとしていた……。
「あぁああぁっ…!?」
突如の叫びと共に、少女は飛び上がるようにして起き上がった。
大きく目を見開き、全身夥しい量の汗をかいて。
動悸が止まらない。視点が定まらない。それは、彼女が目覚める前に垣間見たもの故か。
その時。少女の悲鳴を聞いて、部屋へと飛び込んできた者がいる。
銀色の髪に橙色の瞳、そしてなぜか上半身は全裸ながらもとりあえず寝巻き姿の青年である。
おそらくは突如の事態を察知して、即座に駆け付けたのだが……
![]()
「どうしたんだ、摩耶…!?」
青年の名は“神条 皇子”。この世界ではない世界で神として生まれ、
一度は破滅の魔神となるべく定められながらも、あえて人として生きる事を選んだ男。
彼が呼んだのはその運命の伴侶の名、“東雲 摩耶”。
かつての【関東異界大戦】において、大破壊に巻き込まれ灰燼に帰した街々は、
いまや軌道に乗った再開発計画のもと、新たな未来を紡ぎ出し始めている。
そんな中で皇子と摩耶は、共にこの「希望の園」で職員として働きながら、
施設の子供達と大切な生命を守るため、人知れず世界の脅威と戦い続けている。
そう、彼らこそは
だがこの時、正確には摩耶の部屋に飛び込んだ直後、皇子は文字通り言葉を失っていた。
摩耶がいるはずのベッドの上にいたのは、皇子の良く知る彼女ではなかったからだ。
……そう、そこにいたのは、金髪黒翼の天使。
![]()
「…………」
「……ソルティレージュ……ソルト、キミ……なのか」
皇子が漸く言葉を搾り出し、“だが何故”と続けて問い掛ける前に、
虚ろな目をした彼女の口が開いた。
「…………勝利と、平和……覆い尽くす、虚無……」
彼女ことソルティレージュもまた、本来この世界にいた存在ではない。
今や失われし別の世界線、それも遠く離れた未来の時間軸から現れ、
過ぎ去りし日のかの事件において、皇子が本来迎えるはずだった運命を変えるべく、
摩耶と存在を合一した“最終天使”である。
現在、彼女は摩耶が侵魔と戦う時に変容する姿として現れるものの、
主体となる人格は久しく摩耶のものであったから、完全なソルトとして現れるのは実に久し振りの事である。
しかしながら不覚にも、皇子はその小さな声を聞き損ねてしまっていた。
「……待ってくれ、ソルト!聞こえなかった、もう一度……」
そして、そんな皇子に目を向ける事もなく、かの天使はうわ言の様に言葉を紡ぎ続ける。
「七色の、破滅…………黒と、白……」
「七色の破滅……黒と白……どういう意味なんだ、ソルト!?」
言うまでもなく、彼女の語る言葉は皇子の記憶のどこにもないものばかりである。
だが、彼が彼女に再度問い掛けたその瞬間……黒き翼は儚く砕け、最終天使の姿は幻のように消え去った。
代わって、そこにいたのは……
![]()
「………………みこ、にゃふ?」
皇子のよく知る、摩耶その人であった。その顔は青ざめ、全身大量の汗をかいている。
そんな状態の彼女ではあったが、彼は遠慮する事もなくその身を抱き締めた。
「よかった……摩耶、元に戻ったんだね……」
「どうしたのみこにゃふ、いたいよ……」小さな抗議の声で我に返り、
「ご、ごめん」と、青年は少女からとりあえず身を離す。
しかし、彼の心には依然として、疑問符が渦巻き続けていた。
「(“七色の破滅”……それに“黒と白”だって?……いったい何の事なんだ……)」
摩耶と共にシャワーを浴びながら、胸中に生じた不可解な疑問をぶつけてみようかと考えるも、
おそらく覚えてなどいまい、と思い止まる。
「(……調べてみる必要が、ありそうだな)」
青年は、静かに決意した。
最終天使の言葉が何であれ、それが世界の命運に関わる事であるならば、
もとより彼に“見過ごす”という選択肢はない。
それが、かの事件において“彼ら”に教えられた道であればこそ。
……そして、その“彼ら”は、今。
サクラ >わはー、大事件の予感!?
アメジスト >難しいところですねぇ
翔真 >皆それぞれレベルアップ、前回も強敵だったからそれなりに強くなっていると信じたい(苦笑)
【ごちゅうい】
今回のリプレイでは、序盤において弓PL/しべさん、サクラPL/龍牙さんが前後して転居のため、
それぞれ数回分のセッションに参加できない状況が発生しております。
そのため、各個のシーンを別個に/先行して収録し、リプレイ編集の段階で時間軸をそろえております。
最終的に統合されるまではシーンがスタブになってたり、シーン中に発言がなかったりと、
読みづらい時期が挟まってございますが、あしからずご了承くださいませ。
| NEXT CHAPTER |